ごはんと同じくらい大事なもの

ごはんを食べるのと同じくらい生きるために大事なものたち。

ゲームレビュー:午前五時にピアノを弾く 忘れることについて考えたくなる大人向けの絵本のような短編テキストアドベンチャー

先日注目しているゲームとして紹介した『午前五時にピアノを弾く』をプレイしました。

午前5時から午前8時までの3時間の散策。それを2つの選択肢から選びつつ進んでいくだけのシンプルな作りや、淡い雰囲気、そして穏やかなBGMがゆったりとした時間を作り出していたように感じられる1作でした。

今回はそんな『午前五時にピアノを弾く』の感想を書いていこうと思います。

www.pastime-log.com

午前五時にピアノを弾くってどんなゲーム?

www.youtube.com

以前も紹介しましたが、『午前五時にピアノを弾く』は短編テキストアドベンチャー。舞台となるとある町は、朝になると濃い霧が立ち込めることがあるといいます。その霧の中出かけて、それっきり帰らない人もいるとか……。

主人公の少女は、なぜだかわからないけれどそんな霧が好き。なので霧が出ると、その中をさまよい歩いているのです。

そんな主人公の少女の行動を選択して、午前8時を迎えることができれば物語が進んでいきます。ただし、午前8時を迎える前に、「眠気」「渇き」「狂気」「充電」という4つのパラメータのいずれかが上限に到達してしまうとゲームオーバー。上昇するパラメータをうまく管理しながら、時間を進めていく必要があります。

探索をうまく進めるために重要になるのがアイテムで、上手く使うことでパラメータの上昇を抑えたり、回復することも可能。癖の強いものや、効果を持たない特別なアイテムもあるのですが、それらを理解して使うことで午前8時まで到達できる可能性が大きく上昇します。

このようにシンプルな作りのアドベンチャーで、プレイ時間はすべてのエンディングを見ても2時間かからないくらい。
企画・制作・シナリオを担当したKazuhide Okaの前作である『ナツノカナタ』同様無料でプレイすることが可能です。
プラットフォームはSteamなので、PCでプレイしてみてください。

ストーリーについて

ここまではゲームの概要部分でしたが、ここからはゲームの感想を書いていきます。まずはストーリーについて。

本作には主人公の少女とは別に、記憶を失った男が登場します。ストーリーが進むタイミングでこの男と遭遇し、会話をするような構図。なぜ記憶を失っているのか、そもそもこの曖昧な霧の中に普通の人間がいるのはなぜか?といった部分がエピソードが進むごとにゆっくりと説明されていきます。

少女は山の中のログハウスに家族と住んでいるのですが、もうすぐ引っ越しが決まっています。お気に入りのログハウスから離れること、そして引っ越してしまうといつか好きだった事自体を忘れてしまうのではないか?という恐怖……。そんな感情を胸に抱いて、少女は霧の中をさまよい歩いています。

記憶を失った男は、逆にすでに記憶を失っている状態。だからこそなのか、記憶を失うことについては否定的ではありません。

この対になっているかのような2人が、霧の中で出会い、そして会話を重ねることで理解を深めていく。そして、その2人が会話を重ねることで、忘れていることを思い出したり、「忘れる」ということの意味やそれでも失われないものについて理解していくような、誰しもが人生の中で実感する「忘却」について考え直したくなるような物語でした。

大人になって改めて昔のことを思い返したり、忘れてしまったものに思い馳せたり……そんなきっかけになるんじゃないかと思います。
雰囲気や短さもあいまって大人向けの絵本のような印象でした。少し時間のあるときに少しページをめくってみるような、そんな遊び方がおすすめです。

気になったところ

物語が良かっただけに、探索パートのプレイフィールが少し気になってしまいました。というのも、不可思議な霧の中を歩いているような、曖昧な世界を揺蕩っているような、不明瞭な稜線を進んでいくような、そういう体験を楽しみにしていたのですが、実際はそうではなかったからなんです。

午前5時から8時までの散策では、不思議な光景をいくつも目にしながら、そのたびに行動を選択していく流れになっています。
謎の城下町を見つけたり、なにかに裾を引っ張られたり、猫に出会ったり、檸檬がきれいだったり、何かが手招くようにヒラヒラ揺れていたり……。これらは最初は面白かったのです。ただ、段々と慣れていくとパラメータ増減ばかりを気にしてしまい、そのフレーバーから何も感じることができなくなってしまっていました……。

選択の頻度が多い、または間隔が短いからか、それともゲーム的になりすぎているのか。その両方かもしれませんが、私はプレイしているときに、その不思議な世界観を楽しむのではなく、パラメータと時間とにらめっこして、アイテムを使うかどうか考えて……というような状態になっていたんですよね。

また、遭遇するシチュエーションの種類に見慣れてしまったというのもあるかもしれません。パラメータによってわかりやすくゲームオーバーのラインが見えているので、そちらに意識が行ってしまったというのもありそうです。

そういった理由もあり、少なくとも私は霧の散策を体験しきれなかった印象がありますね……。

さいごに

少し気になる箇所はあったものの、短編の物語として心地よい読後感でした。
途中でも書きましたが、「大人向けの絵本」というのが一番近いと思いますね。

ゲームをプレイするという気持ちでガッツリ向き合おうとすると少し物足りなさがあるかもしれないので、それよりは寝る前に少し本を読もう、くらいの気持ちがちょうど良さそうです。

今までプレイしたノベル・アドベンチャーの感想はこちら。

www.pastime-log.com

www.pastime-log.com

www.pastime-log.com