ごはんと同じくらい大事なもの

ごはんを食べるのと同じくらい生きるために大事なものたち。

ゲームレビュー:GOODBYE WORLD クリエイターの苦悩を描いた儚い物語

何かを作ったことがある人ならわかると思うのですが、クリエイティブな活動というのは楽しいことだけではありません。もちろん、楽しくて楽しくて……と思えるような場合もあるとは思いますが、辛く苦しいような出来事がまとわりついてくることも……。

生きるために、という話になるとそれがより顕著になっていきます。
趣味として何かを作るのではなく、生活のためのものづくりの場合行き詰まってしまうような何かに直面することもあるでしょう。

そういった青く辛い物語を描いたのが今回紹介する『GOODBYE WORLD』です。
SwitchとPCで遊ぶことができるゲームで、今回はPC(Steam)版をプレイ。
感想を書いていこうと思います。

後半はネタバレも含むのでご注意ください。

GOODBYE WORLDとは?

www.youtube.com

ゲーム開発を志す2人。
人付き合いが苦手で、自分の本音を伝えることが出来ないプログラマーの蟹井と人の心を動かす瞬間が好きでデザイナーを志している熊手。とある出来事がきっかけで、もともと会話をしたこともなかった専門学生の2人がチームとなり、ゲーム開発を始めることになります。

専門学生だった2人は卒業後就職せずに、2人でゲーム開発を続けることに。
しかし現実はそんなに甘くはありません。作ったゲームが思ったように評価されずにもがく2人。出会ったときの雰囲気はだんだんと鳴りを潜めていきます。

そんな現実と夢の狭間で悩み苦しむゲーム開発者の姿を描くゲーム。それが本作『GOODBYE WORLD』です。

最初にも書いた通り、SwitchとPC(Steam)にて配信中。
クリアまでは1時間半~2時間くらいなんじゃないでしょうか。
ジャンルの説明が少しむずかしいのですが、概ねADVと言って良いのかなという感じ。このへんは次の項目で説明しようかなと思います。

ゲーム内でプレイするゲーム

ゲームを開始すると『BLOCKS』というゲームをプレイすることになります。
操作方法は移動とジャンプ、そしてブロックの破壊と配置というシンプルなもの。ゲームボーイをイメージしたデザインの画面が表示されることからも懐かしいゲームに仕上がっているのが伝わるんじゃないかと思います。

ジャンルの説明に困った理由はこれ。
普通にレトロゲーと言われるタイプのプラットフォームアクションが含まれているから。

ゲームとしてはシンプルですが、それゆえにわかりやすいパズルアクションと言った印象。うまくブロックを破壊して、節約しながら配置していくことが求められる、キレイにまとまったゲームです。

これだけでも面白いっちゃ面白いのですが、本作はアドベンチャーパートで進められるお話がメインの要素。というわけで、定期的にこのゲームが登場するのですが、提示されるステージをクリアしなくても次に進むことができるようになっています。
そのため、アクションが苦手であっても気にせず遊ぶことができるんですよね。とはいえ、ゲームが目の前に置かれたら遊んでしまうのがゲーマーなので、ぜひ『BLOCKS』も楽しんでみてもらいたいですね。

感想

クリエイティブな活動をする中で、うまくいかずにもがいていって、最初に大事にしていたものを見失ってしまう……。そんな誰にでも起こりうる出来事をシンプルでわかりやすい形に落とし込んで描いていた本作。

「なんでゲーム作ってるの?」

という言葉は、蟹井でなくても答えに窮してしまう人も多いのではないでしょうか?

「なんで絵を描いてるの?」「なんで小説を書いてるの?」のような「なんで〇〇作ってるの?」という質問。それにすぐに答えられるのは、よほど自信がある人か、あるいはこの言葉の前で立ち止まったことがある人ではないでしょうか?。

大きな目標や理由があれば偉いという話ではありませんが、自分にとって大事な物、大事だったものをしっかりと思い出せるのは、ものづくりにおいて重要なことだと思います。ただ、全員が全員それを見つけられているわけではないも事実。

『GOODBYE WORLD』はそんな根源を揺さぶるような問いに対しての答えを見つける物語と言えます。

きれいな演出

蟹井と熊手の物語は全13のチャプターを通して描かれていきますが、チャプターは時系列ごとに並んでいるわけではありません。
それは実際に昔を思い出すときのような、現実と過去の回想の折り重なり方。蟹井と熊手の関係が変わる時、過去を思い返すチャプターがうまく入り込んでくるのです。

個人的には演出の綺麗さも良いなと思った箇所です。
例えば上の画像のシーンは、蟹井と熊手がこれからもゲームを作って生きていくことを決める場面。電車に揺られていた2人ですが、駅に停車したタイミングで蟹井から「これからも一緒にゲームを作ってくれないか?」と話を切り出します。

ここが2人の人生におけるターニングポイントの1つで、「普通の大人」として生きていくことも出来たはず。それを選ばずにゲームを作っていくと表明したあと、電車のドアが閉じる……。

降りることも出来たけど、それでも一緒にゲームを作ると決める。そんなシーンに合わせた場面づくりで、きれいな映画的な演出だと感じましたね。

多重構造の不思議なゲーム

すこしネタバレにもなる話なのですが、このゲームは多重の箱のような構造になっています。
それは題材としてゲーム開発を取り扱ったゲームという意味でもそうですし、ゲーム内で遊ぶゲーム『BLOCKS』もゲーム内ゲームという箱の中にまた別の箱が入っているような構造を示していますね。
ですが、例えばこの『BLOCKS』の画面のひびや説明書として付属しているのがルーズリーフであることから考えられるのは、蟹井が遊んでいたゲームであるように思わせつつ(毎回蟹井がゲームボーイで遊んでいるのはそのカモフラージュで)、実際は開発したゲームだということ。

更にいうと、この『GOODBYE WORLD』というのも……というチャプター13まで読み終えることでわかる事実も登場。

構造の特殊性で終えたときに「ん?」となってしまうのが憎い……。

ちなみに開発をしたISOLATION STUDIOですが、個人のゲームスタジオとのこと。ツイッターを探してみると熊手ヨーコ氏という方が立ち上げたもの……。
もうこれ術中にハマっているのかもしれませんね。

さいごに

よいところを色々と書きましたが、ゲームとしては2時間ほどの短さで、しかもプレイヤーが操作できる、影響を与えることができる部分が少ないゲームです。ADVと書きましたが、読み物と考えたほうがしっくりくるかも。

そのため、こういった形式のゲームが苦手な人、好まない人は楽しめないと思います。

ですが、2時間という短さに閉じ込めたシンプルで研ぎ澄まされた問いや、それに対してもがく様子、そこにある葛藤……。夢を目指すも厳しい現実に振り回される様子は、青春を描く映画のようでもあります。
また、構造的な面白さという部分でも楽しめると思っているので、少しでも気になった人は遊んでみてもらえると嬉しいですね。

今までプレイしたノベル・アドベンチャーの感想はこちら。

www.pastime-log.com

www.pastime-log.com

www.pastime-log.com