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感想:実写映画『弱虫ペダル』は初見向け導入としてよくできた映画でした

 

弱虫ペダル 1 (少年チャンピオン・コミックス)

こんにちは。譲治です。
ロードレース漫画として--と今も言って良いのかちょっと怪しいですが--息の長いコンテンツとなっている弱虫ペダル。
その実写版の映画を鑑賞してきました。
今までアニメ化や舞台化もされてきた本作が、実写映画でどのような形になったのか。
それを書いていきたいと思います。

 

弱虫ペダルとは?

弱虫ペダルは自転車競技を題材にしたスポーツ漫画です。

主人公の小野田坂道はアニメや漫画大好きなオタク少年。
そんな彼がとあることをきっかけに中学時代から自転車で活躍していた今泉や関西から引っ越してきた鳴子に出会い、総北高校の自転車競技部に入部することになります。
小学生のころから片道40km以上離れた秋葉原まで自転車で往復していた坂道は、自転車初心者にも関わらず上り坂に強いクライマーとしての素質を見いだされ、先輩部員や仲間たちと一緒に走る中でその才能を開花させていきました。

共に練習を重ねた仲間たち、別の学校のライバルたちと協力し、競い合いながら先へ先へと進んでいく。
弱虫ペダルは、自転車への熱量や勝利への渇望、仲間との信頼が面白く、そして読んでいる側も熱くさせる漫画です。

そんな漫画である弱虫ペダルですが、序盤の展開はなかなか遅いんですよね。
1年目のメインとなるインターハイ編までに、「今泉との出会いと自転車レース」「1年生ウェルカムレース」「インターハイメンバー選抜合宿」という大きなイベントがあるんですよ。
更に言うと登場人物も多くて、まず総北高校のメンバーとして1年生の小野田坂道、今泉、鳴子、杉本、2年生は手嶋、青八木、3年生は金城、巻島、田所、マネージャーポジに寒咲幹。
ライバル校である箱根学園には真波、福富、新開、東堂、荒北、泉田が、忘れてはならない京都伏見からは御堂筋がいますし、これでもかとキャラクターが登場してきます。
これらのメンバーはぽっと出のキャラクターではなく、それぞれストーリーがあり、それをぶつけ合わせながらレースを繰り広げていきます。
キャラクターの掘り下げが1年目のインターハイを面白くした要素だったのだと思いますね。

 

実写映画版でやったこと


映画『弱虫ペダル』(8.14公開)予告編

では実写版ではどうだったのかですが、簡単に言うとシェイプアップです。

映画という限られた時間では全てのシーン、全ての登場人物を魅せ切るのは不可能。
そこで必要な人物を絞り、シーンの取捨選択をし、そして再構築したのです。
かなり大きな判断だったと思うのですが、功を奏していると感じましたね。

判断①登場人物を絞った

1つ目は登場人物を絞ったことです。
上でも書いたように、弱虫ペダルは登場人物がとても多いお話です。
それをそのまま映画に入れた場合、それぞれの掘り下げは行えず、ただの数合わせと何ら変わらない状態になってしまいます。

ではどうするか。

実写版では登場人物を絞ることで、掘り下げは行いつつ尺の中に収まるようにしています。
具体的には、坂道、今泉、鳴子の3人だけにフォーカスしているんですよね。

坂道については言わずもがな。
友達を作るんだーとか、一緒に自転車漕ぐの楽しい!とか、そういう今までになかった感情に対するもの。
今泉は中学時代のトラウマ、鳴子は個人主義者的な部分をチームにおける役割を与えられ、それを全うすることで乗り越えていく様を描いています。

判断②ストーリーを圧縮して再構築した

2つ目はストーリーの再構築です。
上でも書いた通り、そのままストーリーを進めると各シーンで時間が取られすぎてしまい、映画としてまとめることが難しくなってしまいます。
また、映画という1本で完結するストーリーテリングを考えると、最後はやっぱりレースで勝利して終わりたいというのもあるでしょう。

そこでインターハイメンバー選抜合宿を取りやめ、長くなるインターハイではなくその予選に熱い展開を持ってくるという改変を行うことで、問題の解消を図ることにしたんですね。
登場人物を絞り2年生組を登場させなかったこともあって合宿のエピソードは削りやすいですし、原作では一瞬で終わった予選を上手く使うことで最後にレースで勝利する展開を作ることもできています。

また、深堀りを減らしたこともあり、3年生の活躍も減っています。
その分、1年生3人の活躍に焦点を当てるような構成に変わっているのですが。

 

面白かったのか?面白くなかったのか?

原作から登場人物を削り、ストーリーも改変した実写版。
では面白くなくなってしまったのかというと、そんなことはありません。

もちろん、箱学ファンや、手嶋・青八木推しの人からしたら悲しい改変かもしれません。
ただ、映画という媒体で、弱虫ペダルの根幹部分の要素を魅せるためにどうしたら良いのかという難しい問題への回答としては正解と言っても過言ではないのではないかと思わされる構成になっているんじゃないかなと。
原作の名シーンやセリフを別のシーンに当てはめてみたり、上手に「美味しいとこ取り」しているようにも感じますし、原作への敬意も感じます。

でも全てが良かったか、完璧かと聞かれるとちょっと物足りなさも残るんですよね。
いや、キャラクターやストーリーが減っていることもそうではあるんですが、そこではなく。

物足りないと感じているのは予選最後に戦うことになる、不動とのラストレースです。
不動は南総のエース。
なのですが、描き方がかなりざっくりなんですよね。
強敵をぶつけることで成長を感じさせる展開にしたかったのはわかるのですが、全く情報がなく、説明もなく、深堀りもなく、特徴もなく、何もないぽっと出の「エース」は対抗馬として弱すぎる……。
原作では一瞬で終わるレースなので、良い人物がいないのも仕方ないですし、今作の方針であるメイン3人以外は描かないというのもあったのだと思うのですが、それにしてもぱっとしない。
そこが上手く決まっていたら、かなりまとまりよく、きれいに仕上がっていたんじゃないかなと思いますね。

 

まとめ

映画としては見やすく、わかりやすく、面白いものとして仕上がっていたと思います。
鳴子の髪が真っ赤じゃなかったり、1年生へのフォーカスの結果、巻島の独特なダンシングがなかったこともあり、突飛さが少ないのも好印象ですし、ファンタジーになりすぎない映画として作り上げることに貢献していたと思います。

最後にキャストについても書いておきましょう。
坂道役の永瀬廉は思ったよりもかっこ悪く、声も情けなく、弱々しい坂道を演じられていたのかなと思います。
正面から見たカットはちょっと怖いようにも思いましたが……かなり雰囲気があっていたんじゃないでしょうか。

また、今泉を演じていたのは伊藤健太郎で、かっこいい今泉を表現していたように感じました。
ちなみに「今日から俺は!!」に一緒に出演していた橋本環奈も寒咲幹役で登場していて、こちらはやっぱり橋本環奈だなって感じでしたね。

個人的に一番良かったのは鳴子章吉役の坂東龍汰でしょうか。
鳴子というキャラクター自体が明るく、前向きで、坂道の背中を押してくれるような人物だと思うのですが、それをしっかり体現しているように感じたんですよね。
感情をしっかり表に出し、それでいて他の人に弱みを見せるわけではない、そんな魅力的なキャラクターになっていたように思います。

全体通して面白い映画ではあったと思います。
原作のファンからすると物足りない箇所も多々あるとは思いますが、それでもまだ原作を知らない人が1本の映画として鑑賞して、弱虫ペダルという作品に興味を持つという点ではかなり良い出来なんじゃないでしょうか。

インターハイ直前で終わったので続編が作られる可能性もあるとは思いますが、次は登場人物や重要なシーンが多く、再構築が難しい範囲に入ってきます。
それをどのようにまとめ上げるのか、今から楽しみになりますよね。