こんにちは譲治です。
待ちに待っていた『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』を見ることが出来ました。なのでその熱も冷めぬうちにあれこれ書いていこうと思っていたのですが、「いや待てよ?」とちょっと気になることが。
そもそもみんな前作をちゃんと見てるの?
いや、きっと見てない。
なので、まずは前作として2017年に公開された『鋼の錬金術師』について説明する会を開催しようと思います。完全ネタバレであれこれ書いていくので、いないとは思いますがネタバレを避けたい人はネトフリかなんかで見てくるといいんじゃないですかね?
『鋼の錬金術師』(2017)について
2001年から2010年の10年間に渡って月刊少年ガンガンで連載され、2度のアニメ化、そして様々な派生作品を生んだ大ヒットマンガ『鋼の錬金術師』の実写映画が2017年に公開となりました。それが今回紹介する映画です。
当時、主役となるエドワード・エルリックをジャニーズの山田涼介が演じるということで、ある種の期待と恐怖を感じていた人も多いのではないかと思います。また、ジャニーズの方針でネット上に上がっているポスターから山田涼介が消されるという現象も発生。主人公のいない(アルだけが主役な雰囲気)ポスターが話題になりました。
ファンが多いからこそ、実写映画として失敗してほしくない、失敗しそうで怖い、という意見も多かったように思います。
演出的には特に序盤の戦闘シーンはCGも多く、更にそれがそこまで荒くないというか。もちろん気になる箇所もあるんですが、序盤に集中投下しているおかげか、国産映画あるあるの浮いたCG演出からは抜け出せそうな雰囲気になっています。明るいシーンが多いこともあり、気になる箇所もあるっちゃあるんですが、作りたい見せ場にフォーカスして演出強化をしているように感じられて好印象でした。あと、アルがフルCGなのがすごいよね。そこに結構お金かけてそう……。
個人的には限られた予算や時間の中で頑張ったと思いますし、話をある程度形にするために(次回作ができるとも限らないので)様々な構成変更を行い、ゴールまでたどり着くことが出来た、かなり努力というかなんとか着地まで持っていくだけの実力を感じる作品にはなったと感じています。まぁだからといって100点という話にはならないんですけどね……。
ざっくり構成の話をすると、
- リオール編
- タッカー編
- ホムンクルス戦編
に分けられるかなと。
リオール編はシンプルにエドとアル、ロイたち軍部とホムンクルスの様子を説明するためのパートと言えるでしょう。やっぱりコーネロは噛ませ犬なんやな……。
タッカー編がメインというか、タッカー編の合間にマルコーの話が挟まり、更に第五研究所へのつなぎもありで、映画を駆動させるための重要パート。最後の話にも繋がるのですが、それゆえにタッカーさんの肩に載せられた荷が重く、いろんな暗躍をすることになった結果、演じている俳優である大泉洋の雰囲気というか成分がかなり溢れ出て来て、大泉洋!大泉洋だ!となってしまったのが残念。途中まで結構タッカーになれそうだったんだけどなぁという気持ちです。
最後のホムンクルス戦編では、タッカーの再登場で色々解説をしてもらいつつ、原作では目立たなかったハクロ将軍を悪役に仕立て上げ、原作終盤の展開を使って盛り上げようとする流れになります。その中でラストやエンヴィーといったホムンクルスと戦うのですが、戦闘はそんなに盛り上がるわけではないんですよね……。ただ、ラストを焼くシーンなど、原作を頑張って再現しようとする心意気は感じることができるので、ちょっと違うな?と思いつつも見ることができる……かもしれません。あと本郷奏多(エンヴィー)が焼かれるシーンは最高なので何度でも見てしまう……本郷奏多がやられるシーンが描かれていて最高なので100億万点ですね。これは間違いない。
というわけで、気になる箇所は大泉洋に背負わせすぎたのと、終盤の戦闘がそこまで面白くなかったということくらい。まぁそれが結構でかいんだけども……。それでも制作陣の努力を感じる構成だったんじゃないでしょうか?
話の流れ、構成について
気になるところはありつつも、形にするために行った構成変更は見ておく価値があると思っています。また、完結編を見るにあたって、どの話・要素が既に描かれているのかをはっきりさせておくと整理しやすいだろうとも。なので、話の流れをより詳細に舐めていって、原作のどのあたりを参照しているのか照らし合わせてみることにします。
リオール編
リオール編で起きることはこんなところ。先程も書いた通り紹介がメインとなります。
- コーネロとの戦闘
- マスタングと遭遇
- ヒューズ、ハクロ将軍との遭遇
- 真理の扉で見たものの説明
- タッカーへの紹介
1.コーネロとの戦闘
映画はまず母であるトリシャの死から始まります。これをきっかけに人体錬成を行い、手足とアルの体を失うことになるのですが……この時点ではそこまで詳細には語られません。また、初っ端からコーネロとの戦闘なのでロゼも登場しないですし、宗教関連のあれこれを解決する部分もごくわずか。
その中で語られるのは賢者の石を求めていることと、エドとアルについての簡単な説明なので、原作第1話のラストくらいから始まるのをイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。
原作と異なる部分でこのさきにも繋がる要素だと、コーネロとの戦闘中にオートメイルが故障するシーンが入ります。これによって、ウィンリィを早めに登場させて話を早めようという意図が見えますよね。
2.マスタングの登場
コーネロとの戦闘の最後にロイ・マスタングたちが登場。その場を鎮圧することになります。その中でコーネロが脱走してしまうのですが、そちらはそちらで第2話の最後や第6話のエンヴィー登場シーンをあわせた紹介シーンにつながることに。
マスタングの登場といえば1巻最後のバルド率いる青の団による列車ジャックの最後、駅についてからが印象的ですが、別の話を組み込むわけにもいかず、コーネロの事件にかぶせることでなんとか形にしたのでしょう。
3.ヒューズ、ハクロ将軍との遭遇
ここでヒューズの登場です。そしてそれだけでなく、ハクロ将軍も登場することに。
ハクロ将軍と言われてもすぐに思い出せる人は多くないかもしれませんが、序盤だけでなく終盤にも登場する人物。最初は先程軽く触れた列車ジャックの話です。耳を撃たれた将校がいましたが、それがハクロ将軍です。また、原作終盤に合同演習からのブラッドレイの乗っている列車を橋もろとも爆破するシーンがありますが、その前に進言していたのもこの人。
上でも書いた通り、終盤の出来事の悪役ポジションのキャラクターが必要なのですが、主要人物を使うわけにもいかず、序盤から登場している名前のあるキャラということでハクロに白羽の矢が立ったのかなと思ったりします。
4.真理の扉で見たものの説明
ここで回想。東部まで出張してきたウィンリィとあってオートメイルを直してもらいつつ、ヒューズの家に泊めてもらうイベント。第14話の誕生日パーティ的な立ち位置を兼ねつつ、第23話で描かれた真理の扉を開いたときの話が語られます。真理の扉とはなんぞや?みたいなところの解説ですね。
5.タッカーへの紹介
ハクロ将軍からの伝手でタッカーを招待してもらうエドたち。ここからタッカー編へとつながっていきます。原作では列車ジャックを止めたことを「貸し」としたエドたちへマスタングがタッカーの情報を伝える流れで第5話の話なんですが、ハクロの暗躍を示すためにハクロから伝えるよう依頼が降りる形へ変更になっています。
タッカー編
タッカー編はもちろんタッカーを中心として進んでいくのですが、オリジナル要素が強く出てくるのも特徴。マルコーとの話もあり、結構入り乱れることになります。そのためタッカーのくだりが終わってからもいろんな話が絡んでくるのでそこまで含めちゃってます。
- タッカーの登場
- マルコーと遭遇
- 人語を話すキメラ
- 第五研究所について調査
6.タッカーの登場
紹介を受けてタッカーに会いに行ったエドたち。第5話の前半が描かれていきます。異なるのはアルの体についてタッカーが調べてくれることと、マルコーの情報をくれることの2点。
アルの体については催眠術的な、意識を落とすような特殊な術を使って調査をするとのこと。意識が落ちる寸前にタッカーの言った言葉が気になり、アルは自分の記憶や人格が本物なのか疑い始めるのですが、これは第12話でバリーに問われたことをきっかけで悩むシーンの代わりとなっています。
またマルコーの情報は、原作ではスカーにオートメイルを壊された後、リゼンブールへ向かう途中に護衛としてついていたアームストロングが発見し……という流れで進むのですが、それをタッカーさんが教えてくれる展開に。アルのCGはお金がかかるのでこうやって登場を控えさせることで出費を抑える効果もあるんでしょうね。
7.マルコーと遭遇
タッカーからもらった情報をもとにエドとウィンリィがマルコーを探しにいくことに。駅から出発する直前にはヒューズが送りに来てくれる一幕も。第16話でアップルパイを食べるシーンがあるのですが、同じようなシーンへのつなぎとしてヒューズ自ら来てアップルパイを手渡ししてくれます。
マルコーの目撃情報のある街に到着した二人はマルコーと遭遇。最初襲われるような展開やラストが登場する展開も原作第8話に即しているのですが、アルやアームストロングは登場しません。また、原作ではマルコーから図書館に情報がある、というヒントをもらうだけなのですが、映画ではマルコーはラストに刺されて死亡。死の間際に錬成陣の一部と「第五研究所」というキーワードをエドへ託すことになります。
8.人語を話すキメラ
マルコーから情報をもらったエドがタッカーの家を訪れると第5話後半の有名シーンである「勘のいいガキは……」のくだりで、起きてきたアルが止めるまでエドが殴り続ける流れに。原作ではその後スカーによって殺害されるのですが、そのくだりはなしで話は進行。なんなら大泉・タッカー・洋となったタッカーはこの先の展開への引きとなるような言葉を発しながら連行されていきます。
9.第五研究所についての調査
マルコーが最後に残したものを調べ始めたエド。そこにヒューズとロスが合流し、3人で様々な情報を集めることに。そこに登場したハクロが「第五研究所は旧缶詰工場だ」という情報を教えに来たため、エドとアル、そしてウィンリィは廃屋となっている旧缶詰工場へ向かうことに。
そこはただの廃屋で研究所でもなんでもないのですが、調べて歩くなかでアルの自分自身の存在についての疑念が噴出し、第15話の流れに。原作よりも派手に殴り合うことになるのですが……エドの手大丈夫か……?
ホムンクルス戦編
物語の最終展開。そのきっかけはヒューズの死から始まると言えるんじゃないでしょうか。なのでそこを基準に分割したのがこの最終パートです。
- ヒューズの殺害
- 第五研究所へ
- タッカー再登場
- ハクロ登場
- マスタングvsホムンクルス
- 真理の扉へ
10.ヒューズ殺害
錬成陣関連で気づいてしまったヒューズが殺されるシーン。第15話の終盤ですね。原作ではマリア・ロスの姿になるシーンがあるのですが、映画ではマスタングに化けることで、マスタングを犯人として扱う流れになります。
11.第五研究所へ
外部からの取次で電話を受けたマスタングは本来の第五研究所である、旧捕虜収容所へ向かいます。またその情報を知ったエドたちも第五研究所へ向かうことに。
地下道を通って侵入しようとすると、そこに登場するのはロス……なのですが、マスタングはロスを焼いてしまいます。状況は異なりますが第35話のロスを焼くシーンを彷彿とさせますね。また実際はロスではなくエンヴィーが化けていたのですが、理由は泣きぼくろの位置が違うから。第15話のくだりも少し入れつつ、映画オリジナルのシーンを作っています。
また、マスタングがラストに腹を突き刺されるシーンも入っていて第38話の要素も。終盤に向けて、入れられるものをガンガン入れようとしているのを感じますね。
12.タッカー再登場
研究所の奥に広がる大部屋。床に描かれた錬成陣に、天井にぶら下げられた人形兵。そしてそこに現れるタッカー。
映画独自の要素ですが、タッカーが目指していたことを聞かされると同時に、賢者の石のためには生きた人間が必要になることなどを知ることに。このシーンのタッカーさんは完全な解説役で、完全に大泉洋。
既に真理の扉を開いているアルを介して真理の扉の中身を知ってやろうぜ!みたいな魂胆でアルを拉致ったんだけど、ラストに殺されてしまう…・・おしゃべりな男は嫌いらしいよ?
13.ハクロ登場
ラスボス的な雰囲気で登場しつつもサラッと殺されてしまい、解説役で終わってしまった大泉・タッカー・洋に変わって登場したのがハクロ将軍。いろんな暗躍をしていた人ですね。ホムンクルスとのつながりもあったのですが、そんなの知らんと人形兵を起動してしまいます。原作で言うと、第80話の「人を作るな」から始まる説明と第90話の人形兵起動の部分がそのままハクロの仕事になった感じ。もちろんパパは食べられてしまいますが。
14.マスタングvsホムンクルス
人形兵との戦闘シーンが始まると思いきや、そこまでガッツリとは描かれません。だってあれCGだからね。大変じゃん。
アルは大泉洋のお陰で真理の扉の記憶が復活。錬成陣なしで錬成ができるように。原作で記憶が戻ったのは第30話で、グリード率いるデビルズネストのあれこれの終結まで話を進める必要があることを考えるとまぁ……という感じではありますが、記憶戻す必要はあったのかは疑問。
最後の戦闘では、エンヴィーを焼き、ラストも焼き尽くす展開に。エドも多少はサポートしましたが、基本的にはマスタングが戦う流れ。ラストを倒すシーンは第39話を意識したものになってましたね。
15.真理の扉へ
手に入れた賢者の石を使って真理の扉の前に行って、アルを呼び戻す……加と思いきや、人が材料になっている賢者の石を使うのはやめて別の方法を探すことに。アルを見つけるところは第53話的ではあるのですが、アプローチというか表現が違っていて、映画版ではどのように話を進めるのかが気になりますね。
状況のまとめ
各登場人物の状態や死んだ人など、状況をまとめるとこんな感じになります。
- エド:賢者の石の素材理解
- アル:錬成陣無し錬成可能
- マスタング:お腹怪我した
- コーネロ:死亡
- マルコー:死亡
- タッカー:死亡
- ヒューズ:死亡
- ハクロ:死亡
- ロス:生存(特に活躍なし)
- ラスト:死亡
- エンヴィー:焼かれただけ(逃げた)
- グラトニー:逃げた
マルコーが死んでるので、今後の展開に響きそうな気もしますが、うまく調理してくれると信じましょう。
さいごに
前作2017年版の映画を振り返ってみると、様々なシーンがピックアップされて使われていることがわかるかと思います。90話付近の話も使っているので、今公開されている復讐者スカーや今後公開される最後の錬成を通してどんな展開になっていくのか気になりますよね。
最初に書いた通り、個人的には構成の部分では一定以上評価できると思っています。前作の公開時にもらった『鋼の錬金術師0』の最後に書かれた対談にもありますが、監督としては前作ですべて出し切るくらいのつもりで進めていたのでしょう。そのため、いろんなシーンを使いつつ、説明を重ねないと伝わらないキャラを外して作り上げたんじゃないでしょうか。だからこそ、原作との違いに戸惑うファンも多いのですが、それは仕方ない。だってすべてを拾い上げることはできないから。効果のある箇所をしっかりすくい上げ、形にしたのはすごいことだと思っています。
第五研究所まで進めるとして、バリーとかがラスボスじゃいまいちだよな。ホムンクルスと戦ってほしいし……。でもホムンクルスとのガチ戦闘はバリーの体を使った話とかだからまだ先……?じゃあ状況作っちゃうしかないな。それに合わせて不要なシーンは省いて、キャラも取捨選択して、役割を変えてでもゴールにたどり着かせるためには……。
そんな風に監督は考えていたんじゃないかなと感じたんですよね。なので、気になる箇所はありますが、個人的な評価としては構成については好印象。
ただやっぱり気になっちゃったんだけど、大泉洋は大泉洋だったね。
追記:『鋼の錬金術 完結編 復讐者スカー』を見たので感想を書きました。