深夜なんとなく、強いて挙げるとしたら月が綺麗だからというくらいの理由で外を散歩したくなるような時がある。そんな時足を踏み入れた「ムーンパレス」には、過去と、充分すぎるほどある現在、そしてファミレス。甘くけだるい時間だけが存在する。
何を言っているかわからないかもしれない。でもそういうものなのかもしれない。
私がこのゲームをプレイして最初に感じたのは、似たような困惑だったから。
なあ君、ファミレスを享受せよ。
月は満ちに満ちているし、ドリンクバーだってあるんだ。
ファミレスを享受せよとは?
『ファミレスを享受せよ』は永遠のファミレス「ムーンパレス」を舞台にした、コマンド選択式のアドベンチャーゲーム。月が綺麗だからファミレスに向かった主人公はムーンパレスに閉じ込められてしまう……。
主人公よりも先に迷い込んだ人、王様や掃除機の設計者や引きこもりとの会話を通じて、ムーンパレスの謎を解き明かし、元の世界へ戻ることが目標となる。ジャンルはSFと言って良いと思う。ファミレスだけど。
もともとはフリーゲームとして作られた本作。それがSteam版になってリリースされたという記事を見たのがきっかけで、私もこの世界に迷い込んでみた、というわけ。不思議な雰囲気で、独特で、どんな話になるのか見当もつかないこの感じ。2時間くらいのプレイ時間で楽しみきれる短編小説のようなゲームだけど、それがちょうどいい。そんなゲームを偶に遊びたくなる。なんといってもドリンクバーもあるしね。
最初にも書いたように、このゲームを始めて最初に感じたのは困惑に近い感情だった。
ファミレスという知っている空間なのに、何かがおかしい。メニューかと思ったらつるつるした板だし、ドリンクバーには知らない名前の飲み物だらけ。引きこもって出てこない人はいるのに、ケーキはない。知っている世界に似ているのに、根本的に何かが違う世界。そんな異質なナニカが、画面の向こうからこちらを見ているような感覚があった。でも、そんなに強く引き込もうとするわけでもないのが少し不思議で、「ああ、来たのかい」と気だるげに話しかけてくるくらいの軽い温度感で待っているような印象を受けた。
実際に遊び進めてみても、受ける印象は同じ。でもその雰囲気が持つ不思議な心地よさのようなものがあって……。少しダウナーな雰囲気だったり、深夜の静まった時間帯の特別感、そういったものに近い空気。そういったものにゆったりと包まれるような独特な体験、とでも言えば良いのだろうか。グラフィックや色合い、そしてBGMやキャラクターのやり取りを読む中で、その心地よさに心を委ねたくなってくる。別の捉え方ができることを承知の上で言えば「雰囲気ゲー」なのだけど、その雰囲気こそがこのゲームの本質なんじゃないかとも思えてくる。
ゲームについての感想記事には表題に「ゲームレビュー」と入れることが多いのだけど、本作について書くに当たって「ゲームレビュー」と言って良いのか悩んだ。何が良かったのか、どう良かったのかを語るのが難しく、自分の中の困惑を説明しきれないと最初からわかっていたから。
それでも、夜遅い時間や気の張った作業のあと、できれば好みの飲み物を用意して、ゆったりとファミレスを享受する……そんな触れ方がちょうどいいと、おすすめの遊び方については書き残しておきたい。
Switchでも遊べるようになるそうなので、ぜひこの有り余る現在の中で、緩くけだるく他愛もない雑談を楽しんでみてほしい。
ドリンクバーだけでなく、間違い探しもあるしね。