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再開発が中止になってしまった『Anthem』を偲ぶ会

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『Anthem』。
それは勝利が約束されていたはずの物語。
輝かしく飛び立つことを望まれていた讃歌。

そして、再起をかけた希望とともに沈んでしまった沈没船……。

今回は再開発が中止となってしまった『Anthem』について、少し語りたいと思う。

Anthemとは?


Anthem Official Cinematic Trailer (2018)

まず最初に『Anthem』がどのようなゲームだったのかを振り返りたい。

『Anthem』が脚光を浴びたのは2017年のE3のこと。
最初はXbox oneの独占タイトルとして発表され、ブースの様子を映した映像ではかなりの好評・好感を持って迎えられたと記憶している。

開発元はBiowareというカナダのゲームスタジオで、『マスエフェクト』シリーズや『ドラゴンエイジ』シリーズの開発していることで知名度が高く、また新たなタイプの伝説を作り上げるのだろうと、個人的にかなり楽しみにしていた。
ゲームプレイの様子を見ると、『Destiny』に近い雰囲気なども感じることができる。
新しい武器を手に入れて自分をどんどん強くしていき、それによって更に強い武器を手に入れていく……ハクスラ要素の強いTPSシューターとして、多くの人が同じように楽しみにしていたことだろう。

また、見た目の部分で目を引くのがジャベリンと呼ばれるエグゾスーツだ。
空を自由に飛び回る姿から、アイアンマンを彷彿とさせるその姿が恐ろしくかっこいい。

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ジャベリンのフォルムはタイプによって堅実なアーマーのような見た目もあれば、魔法使いのような見た目もあり、更にはタンクと呼ぶにふさわしい頑丈なものもあるなど、個人のプレイスタイルや好みに合わせたカスタマイズも可能。
全てにおいてかっこよさの塊でしかない。

当然見た目だけでなくアクションもかっこよく、操作に慣れると自由に空を駆け、敵を次々となぎ倒し、スピーディかつパワフルな戦闘を行うことができるようになる。
特にインターセプターと呼ばれるジャベリンは高速機動が強みということもあり、二段ジャンプを駆使した近接攻撃で敵を倒していくのだが、その様子は華麗な舞のよう。
強さだけでなく、美しさも兼ね備えた最強の存在。それがジャベリンであり、『Anthem』なのだ。

 

大きな問題を抱えて生まれたAnthem

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『Anthem』は素晴らしいゲームだ。
少なくとも私は今でもそう思っている。
ただ、多くのユーザーがそう言い続けるには難しい、大きな問題を抱えていた。

1つ目は多すぎる不具合だ。
発売直後に遊んだ人であれば悲しい顔をしてうなずくと思う。

ジャベリンのカスタマイズをしようとすると描画が崩れ、変更したもので決定しようとするとログアウトされ、町から出ようとするとクラッシュする。
ミッションはクリアできず、カットシーンからは復帰できない。
PS4が強制終了し、起動できなくなった人もいた。
完成したゲームとして世に出すことが憚られるような問題の数々。
デバッグが足りていないとかではなく、デバッグできていないと言われても仕方ないほどの不具合の山。
私自身が遭遇したものはそこまで多くはないが、ネット上には『Anthem』を遊びたいのに遊ぶことができない人々の悲しみの声が渦巻いていた。

2つ目は長すぎるロード時間。

不具合もあるが、町から出るのが本当に難しかった。
ロードにかなりの時間がかかり、自由な世界へ繰り出すこと自体の難易度が高かった。
メニューなどの読み込みにも時間がかかり、不具合と相まってプレイ自体へのストレスがかなり高いものになっていた。

3つ目はちぐはぐなゲームデザイン。

これは特にやり込んだ人たちから上がった声がもとになっているのだが、言ってしまうとドロップ率の低さや、苦労して手に入れたとしても無意味なものになってしまう設定の甘さや、エンドコンテンツのレベルデザインの弱さが挙げられる。
レジェンダリーと呼ばれる最高レアリティの装備を手に入れるのが相当難易度が高く、また装備についているバフが遠距離武器なのに近接攻撃に対するものだったりと意味が無いものになっている問題があった。
また、エンドコンテンツであるストロングホールドは難易度の高いものにチャレンジしてもいいアイテムが手に入るわけではなく、一番簡単なものを繰り返すだけで「高みを目指す」動機が欠落していた。

これらについては『DiabloⅢ』のゲームデザイナーが改善案を提示するなど、かなり深刻な状況になっていたほど。

automaton-media.com

多くの人が問題視し、そしてもっと良くなって欲しいと願っていた。

これらの問題を解決し、より良いゲームに生まれ変わるために進められていたのが「Anthem NEXT」「Anthem2.0」と呼ばれる再開発プロジェクトだったのだが……それが先日2/24に正式に中止となることが決まった。
サーバーがすぐに停止されるというわけではないが、今後Anthemが改善される機会は無くなってしまったのだ。

 

私にとってのAnthem

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ここまでは『Anthem』について、客観的に言われていたこと、起きた出来事を書いてきた。
まぁ一部個人的な感情が出た箇所もあるが……本当に書きたいのはここから。

最初に言っておくと、私は『Anthem』が好きだ。
それは今も変わらない。
とあるアップデートのタイミングで離れてしまったが、このゲームで得られる体験は素晴らしく、気持ちよく、最高にかっこよくて、今でも大好きなゲームと言って間違いない。
トロフィーもプラチナ手前まで獲得しているし、それなりに長い時間遊んだと思う。

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説明のところでも書いたが、すべてがかっこよく、それを自分の操作で実現できるのが最高のポイント。
最初はまっすぐ飛ぶくらいしかできなかったのが遠くまで飛ぶためにスラスター冷却ができるよう水面ギリギリを飛んだり滝に一瞬触れたりできるようになったり、戦闘中は敵の攻撃を避けたり次の敵を倒すために高速移動できるようになったり、装備の面だけではなく自分自身が上達していき、強くなった感覚を得られる。
3Dで描かれていても2次元的なゲームが沢山あるなか、『Anthem』は飛行によって3次元的な組み立てができるようになっていて、ジャベリンを乗りこなした(ように感じられる)瞬間に世界が自分の手の中に収まるような全能感を浴びることができるのだ。

そしてそれだけじゃなくて。
フレンドやマッチングした知らない誰かと一緒に戦うCoopシューターならではの共闘感も当然素晴らしかった。
自分よりも強い味方を見て、もっと強い武器を手に入れたいと感じたり、他の人が使っているショートカットルートを見て覚えたり。
ストロングホールドでは効率的に回るためにそれぞれ分担して敵を倒したりアイテムを集めたり、倒されそうな味方をカバーすることも当然ある。
ジャベリンを乗りこなしたメンバーだからこそできる協力があって、即席であっても1つのチームになっていく。
やり込んだからこそ、というのもあるとは思う。思うけども、他ではなかなか味わうことのできない最高の体験だったのだと今でも確信している。

最後に書いておきたいのは装備のドロップや収集にかかわる話。
これは……ちょっとマイナスな部分も含まれていて、そこがどうにもならなかったからこそ離れてしまった部分でもある。
開発はハクスラの面白さを形にできなかったんだと思っていて、もっとシンプルに「たくさんドロップするけど良いものと巡り会えるかは運次第」なのか「あまりドロップしないけども良いものにしっかり出会える」なのか、どちらかに落とし込んでしまったら良かったのに、と今でも思っている。
今は知らないけども、少なくとも当時は「あまりドロップしないし、良いものと巡り会えるかは運次第」という、かなりストレスフルなドロップ調整だった。

もちろん、そんな中新しい装備やギアを手に入れたときは嬉しいし、レジェンダリーを手に入れた時の喜びもひとしお。
何回も繰り返して手に入れるから愛着も湧くし、思い出の詰まった自分だけのジャベリンになっていく。
それ自体が悪いとは言わないし、私自身の体験を否定することになるので言わない。
でももっと「ハクスラでどうなると嬉しいのか」を分析してほしかった。
それがあったら、違ったのにな……。

 

Anthemを偲ぶ

書いていると気持ちが溢れ出してきて、最初に書こうと思っていたものとは違うものになってしまったように思う。
それでも、もしかしたらだからこそ、私が感じている部分や『Anthem』の面白さや悲しみが伝わったのであれば、それはそれで良かったのかもしれない。

今回少し語ろうと思ったときに、2年ぶりに『Anthem』を起動して少し空を飛んでみた。
久々だったこともあってぎこちなかったとは思うけども、それでも自由に飛び回る気持ちよさを思い出すことができたし、かっこよく戦う喜びをまた感じることができた。
以前よりも使いやすくなった場所もたくさんあるし、フリーで飛び回っていると他のプレイヤーに遭遇することもあった。何ならパーティへの招待ももらったくらいだ。

それでも、『Anthem』はこれ以上良くなることは無い。
たくさんの良い部分が、大きな問題に塗りつぶされてしまって、遊んだことのない人ほど悪いイメージが強いと思うし、遊んだ人は失望の気持ちが大きいだろう。
それでもいつの日か、この讃歌が別の形やミームのように繋がって、どこかでまた出会えると良いなと思うし、次こそは失望ではなく期待と喜びをもって迎えられるよう願わずにはいられない。