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ゲームレビュー:Stray 猫となってサイバーパンクな世界を歩き回る、正統派アクションアドベンチャー

人類が絶滅した後の世界はどうなっているのだろうか?

自我を持ったAIが文明を築いている?
植物が大きく繁栄して世界のリセットが行われる?
二足歩行で人型に近い別の知的生命体が生まれて世界を支配する?
増殖した微生物によって世界の浄化が行われている?

いいや、違う。

猫が廃墟を散歩しているのだ。

人類が残した文明の跡地に生きる猫が仲間と一緒に歩き回り、雨をしのぎ、そして運悪く地下へ、壁の内側へと落ちてしまった猫がいた……。
そんなところから始まるのが本作『Stray』だ。

今回はこの『Stray』をプレイし、クリアした感想を書いていこうと思う。言うまでもなくネタバレ(猫が可愛い等)が含まれるが了承してもらいたい。

『Stray』はどんなゲームなのか?

stray。
辞書を引くと、迷い込むはぐれるという意味が最初に出てくる。

最初に書いた通り、本作では数匹の群れで過ごしていた猫のうち一匹が運悪く転落し、はぐれてしまうところから物語が始まる。はぐれてしまった猫は廃墟や街を探索しながら、地上を目指して進んでいくことに。

地下世界を探索していると、そこには人間の生活の形跡だけでなく、ロボットによる文明に出会うことになる。ロボットたちはまさに人間に代わったかのように文明を気づいており、息づいているのだ。ただ、住む場所による立場の差があり、それは現代社会と同じでもある。ダウンタウンはスラム的であり、そして脅威にさらされ続けている。だが、アップタウンで生活するロボットたちは自由だ。ある程度の制約はあるものの、時にはクラブで音楽に身を委ねることもできる。そんな貧富の差の縮図のようなものが描かれつつも、実はそれ自体が……といった世界観的な魅力も詰まったゲームが本作『Stray』だ。

これらの設定はもともと言われていたように「サイバーパンク×猫」で、他のゲームではなかなか見ることの無い世界を提示してくれている。猫らしくスラムやディストピアを渡り歩いていく様子はそれだけで新しく、また後述するがアクションにも良い変化をもたらしてくれている。

猫が好きで、サイバーパンクな世界も好きなのであれば、『Stray』を遊ぶべき……と言いたいところだが、その前に色々説明しておくべき箇所があるので、次の項でそれらを順番に説明していこうと思う。

どこに行くか考えるのが楽しい(だが物足りない)ジャンプアクション

『Stray』をジャンル分けするのであれば、パズルアクションゲームということが出来るだろう。猫の特性を活かした高い跳躍力で自分の体の何倍もある高台へ渡っていき、縦方向の移動による目的地到達を実現している。

素晴らしいのは目的地の提示だ。
基本地形で使用する色の少なさ、そして重要な箇所の色は主張をしっかりと、というような設計ができており、行くべき場所をはっきりとイメージすることができる。イメージが出来るとどうなるかというと、目的地に向かうためには「どの足場をジャンプで登っていけばいいか」という思考にプレイヤーは集中することになるのだ。ジャンプというアクションを使ったゲームは色々あるし、縦方向のゲームデザインも無い訳では無いが、それが猫と繋がって意味のあるゲームになっていることに正直感動を覚えるだろう。

ただ同時に気になるのはジャンプの出来る箇所の制限だ。
猫なのでジャンプが得意というところまでは素直に理解が出来るのだが、登れる場所と登れない場所があるのはどうしても違和感を覚えてしまうのだ。ジャンプ出来る場所にはボタンが表示されるというのもゲーム的で、パズル自体は成立しているが自由度はどうしても下がる。面白いけどもやもやする、というのがアクションパズルに対する正直な感想だった。

必見の(だが物足りない)猫アクション

最初に言っておこう。
爪とぎを始めとした無意味なアクションこそが、『Stray』における面白いポイントなのだと。

爪とぎだけでなく、他には特定のポイントでは眠ることができるし、飛び移った本の山を崩したり、バケツを落としたりと(ゲームに関連することもあるが)猫らしく振る舞うためのアクションが複数散りばめられている。ただ、爪とぎをしても攻撃力が増すわけでもないし、眠っても体力が回復するわけでもない。そもそも基本的には攻撃という概念は無いし、体力も自動回復するのでRPG的なHP管理が必要というわけでもない。
やるべきことは「パイプや室外機をジャンプで渡って目的地を目指すこと」なので(ドラム缶の中に入って転がすのはたまに意味があったりするが)ジャンプのほうが圧倒的に意味を持っている行動だ。だがしかし、猫らしく振る舞い、猫の目線で世界を散策し、猫のように自由に過ごすのもこのゲームの重要な楽しみ方だ。だとしたら、ゲーム的には無駄な猫アクションこそが猫らしさを作るアクションであり、猫になりきるために重要なアクションだと言える。

だが同時に、こちらもジャンプ同様特定の場所でしかできないのが気になってしまう。むしろ無駄な行動だからこそ、強烈な違和感となってしまったように感じた。猫は無駄な行動(猫から見たらとても重要な意味を持ち、見ている側も和むという重要な行動だが)を取ることがあり、それを再現することができないのだ。自由に香箱座りしたいのにできない。好きな場所で爪を研ぎたいのにできない。あくびをしてごろごろして、突然立ち上がって走り回りたいのにできない。

猫らしさを重視するのであれば、ここにこそ力を入れるべきだったのではないだろうか?

唐突な(本当に唐突な)難易度上昇要素

猫らしい生活を楽しもうとしていると突然出てくる敵の存在。
ゲーム的には面白く、思考が重視されるパズルだけでなく、よりアクション的な操作を求めるパートとしてゲームが成立していたように感じられた。特に鳴き声との組み合わせは猫らしいチェイスアクションを作るために重要な要素で、鳴き声に反応した敵をうまく撒くことが出来た時は、賢い猫になったと感じることができたように思う。

だが、猫らしさを楽しみたい人からしたらどうだろうか?
実際ネット上では、急激な難易度上昇、そして猫の死に衝撃を受けるユーザーが多くいたように見受けられた。
またゲームとして面白さは感じられるが、良く言えばかなり緩急の効いた調整であり、悪く言うと突然の難易度急上昇。ボスのいない本作にとって壁となる要素が必要なのもわかるが、それにしても唐突さが否めない

また難易度を急激に下げる要素も存在する。ネタバレになるため明言は避けるが、逃げることしかできなかった敵へ立ち向かうことが出来るようになるのだ。だがそれはゲーム的な面白さも投げ捨ててしまうようなゲームの崩壊とも感じられる仕様で、実装した理由はわかるがもっと良い解決策がなかったものかと思えて仕方ない。

最高の猫ゲーなのか、それとも正統派アクションアドベンチャーなのか

色々書いてきたが、『Stray』を語る上で考えたのは「猫ゲー」なのか、それとも「アクションアドベンチャー」なのか、という問いだ。
個人的な感想としては、正直どちらももう少し力を入れて欲しかった。猫ゲーとしては出来ることに制限がかかりすぎており、アクションアドベンチャーとしてはかなりよくできていたが部分的に粗い箇所が目立ってしまっていたように思う。アクションアドベンチャーとして考えると充分面白い。面白いのだが、新しさを感じる部分が少ないというのが実際のところだ。そこに「猫」「サイバーパンク」と言った要素が混ざることで新しいゲームとして生まれた、というのもわかる、わかるがそれにしては猫要素が中途半端なのだ。
開発チームには猫好きが集まっているという話もあったが、だとしたらもっと猫感を出す部分に力を割いても良かったのではないだろうか?猫が好きだからこそ感じてしまう動きの硬さ、表情の違和感、視線の気味の悪さを解消し、猫らしい無駄な行動に力を入れても良かったのではないだろうか?もういっそ、アドベンチャー的なゲームシステムがある程度崩れたとしても、猫ゲーに特化しても良かったのではないだろうか?そんなことをどうしても考えてしまうのである。

かなりのポテンシャルを秘めたゲームだと感じるからこそ、プロモーションにおいても押し出していた猫らしさをもっと極めるべきだったと感じてしまったのだと思う。面白く、いい部分もたくさんあるのだが、もう少しできたんじゃないかと考えてしまうのだ……。

さいごに

序盤に書いた「猫が好きで、サイバーパンクな世界も好きなのであれば、『Stray』を遊ぶべき」というのは、概ねその通りだ。だけどプレイする前にしっかりと覚悟を決めた方が良い、とも思う。とくに普段アクションゲームをしていない人にとっては難易度が高く感じられるだろう。

でも忘れないでほしい。難しいアクションパートだけでなく、自由に散策できる時間もあるということを。また、アクションの合間にも猫の可愛らしさを感じる瞬間があるということを。

さらに今回は触れなかったが、相棒となるドローンとの距離感も見ていて癒される要素だ。バディもののような1匹と1機の様子がそれはそれは素晴らしいとも思えるのだ。(本作の猫が猫らしくない、知的すぎる生き物になってしまう原因の一端を担っているのもこのドローンではあるが……)

気になるところもあるが、それだけでなく良いところもたくさんあった『Stray』。ゲームオブザイヤーを取れるというような話も聞いたが、私個人の感想としてはそれは難しいと思う。面白いし話題性も高いのだが、足りていない要素のほうが目立っているように思える。ゲームであることと猫を表現することの狭間での迷いとも言えるかもしれない。

6時間程度でクリアすることが出来るゲームだ。あっという間にクリアしておしまいというのもいいだろう。だけど、素直にクリアを目指さなくてもいいのだ。ロボットと一緒に音楽を聞いてもいいし、ひたすら爪とぎをしてもいいし、なんならずっと眠っていてもいい。むしろ皆がそうであってほしいとすら思う。
『Stray』は猫好きかつアクションアドベンチャーに慣れている人に、またはアクションに挑戦してみたい人におすすめできる、猫とサイバーパンクな正統派(に寄り過ぎたかもしれない)アクションアドベンチャーだ。